あいつらの末路
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(91)あいつも轟書房と名乗っていた
『考えられるとしたら、同じスタイリストがついていたという可能性だね』 同じスタイリスト? それなら納得だ。ときどきタレントや俳優のファッションがまるかぶりするという事故が起きるが、そういうとき…
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(90)あいよ、いつものチャーハンだね
「チャーハンは?」 母が、しきりにこちらを窺う。このまま後回しにしていたら、母は幼児のようにぐずり出すだろう。 検索をいったん棚上げすると、睦代は馴染みの街中華屋に電話を入れた。いつも…
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(89)母は完全に子供に戻っている
うるさい、うるさい、黙れ! 「え? なにか言ったかい?」車椅子の母が、きょとんとこちらを見ている。「そんなことより、あんた。お腹空いたよ、ご飯、まだ?」 シンクの中を見てみると、朝食で…
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(88)同じ男に騙されたってわけさ
めまいがするような暴言。でも、睦代はなにひとつ言い返せなかった。 その通りだ。今日会ったばかりの私のどこが気に入って、あの人は「婚約者」なんていう言葉を出したのだろう? 答えはひとつ…
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(87)結婚詐欺に決まってんだろうが
「あら、戻ったの? 早いじゃない」 母が、視線をテレビモニターに貼り付けたまま言った。 「今日は、予定変更になったから」 「また、ドタキャンしたの?」 ちょっ。なんてこと言…
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(86)なんでヘルパーがまだいるの?
「あ、すみません。亡くなった妻と似ているなんて、失礼ですよね?」 「いえ、そんな」 睦代は再度洟を啜ると、 「ボタン。……おつけしましょうか?」 「え? ああ、ほんとだ、ボタ…
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(85)あなたは亡き妻に似ています
十一月十七日月曜日、午後二時。 皇居を見下ろす、ラグジュアリーホテルの最上階のラウンジ。目の前にはアフタヌーンティーの品々がずらりと並べられている。美味しいものや流行りのものは食べ尽くしてき…
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(84)婚活サイトに登録してみると
わかっていても、深淵を覗き込んでしまうのが、睦代という女の性である。 睦代は、婚活サイト「Two-winged」にアクセスすると、自分でも驚くような行動力に突き動かされて、登録までしてしまっ…
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(83)あんたは熱中しやすいのが悪い癖
男性は上下関係を好むけれど、女性は、横並びな関係を好む。だから女性は、誰か一人でも上昇しようとすると、みんなでその足を引っ張り合い、元の場所に戻そうとする。だからといって下にいる者を引き上げようとは…
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(82)睦代の自宅は低地の工場地域
ライターの景子さんの様子がおかしい。どう考えても、きっかけは結婚だ。それまでの景子さんは、癖のある人ではあるが、仕事はできた。締め切りは必ず守り、クライアントのリクエスト通りの原稿を仕上げてくる。そ…
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(81)睦代の中にイケメンが誕生
遡ること、十一月十四日。 睦代は、ある男からメールをもらう。名前は、八神隼人。まるで芸能人のような名前だと思った。名は体を表すというが、まさにそうだ。会ったこともない人物でも名前だけで人はあ…
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(80)「家計簿拝見」は人気コーナー
「家計簿拝見」なんて手垢のついた企画ではあるが、それでも、手堅いコンテンツだ。誰でも、他人の懐が気になるものだ。案の定、「家計簿拝見」は人気を博し、紙媒体からウェブ媒体に移行してからは、ますます人気コ…
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(79)部下は正直使えない人ばかり
十一月十八日、午前十一時。 景子さんと連絡がとれない。 田端睦代は、スマートフォンの画面を凝視した。しかし、表示されるのは自分が送ったメッセージのみだ。昨日まではちゃんと返信がきてい…
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(78)近所でも有名な嫌な女でしたね
【ホームヘルパー残酷物語】 11月19日。この日は、Y県破輪洲市ハワースの丘で起きたふたつの事件が新聞紙面を賑わせた。 ひとつめは、その前日に死亡が確認された増井智也さん(49)と増井…
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(77)華奢な女子高生なんていちころ
そうだよ、さくらちゃん。警察に行ったほうがいい。逃げていたら、それだけ罪が重くなる。逆にしおらしく自首すれば、刑が軽くなるのが日本の司法だ。日本の司法って、案外、お涙ちょうだい的なところがあるんだよ…
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(76)犯人はおばさんだったりして?
『ここで速報です。Y県破輪洲市ハワースの丘の住宅で、新たな遺体が発見されました。死亡していたのはこの家に住む秋沢景子さんと見られ、警察は、前日に起きた強盗殺人事件との関係を調べています。それでは、現場…
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(75)事件のキーワードは受験
「もんちゃんだけは!」 思った以上に大きな声に、朝美はびくっと体を震わせた。 え? 「もう、おばさん、また気を失っていた?」 さくらちゃんの手が、こちらに伸びてくる。キッ…
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(74)紋次郎だけはどうか助けて
「もう、本当に頭が変になりそう!」 さくらちゃんが、持っていたテレビのリモコンを床に投げつけた。驚いた紋次郎が物陰に隠れる。また、さくらちゃんのスイッチが入ってしまったようだ。朝美は、二の腕を…
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(73)行方不明の子供って もしかして
さくらちゃんは、頬を紅潮させながら、話を続けた。 「もっと遡れば、代々、あの辺の家に住んでいた人たちはすぐに出て行くハメになる。きっと、みんな変になっちゃったんだよ。あたしの家族もそう。ま、も…
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(72)ゴミ集積所の隣に小さな祠
「でね、ハワースの丘のことを色々と調べていたら、二十九年前に起きたH市一家殺害事件との関連を示す資料が出てきたってわけ。今は廃刊された男性向け雑誌に載っていた記事。あれを発見したときは、興奮したな! …